B-BLUE

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  1-2 赤い目  

「っのわぁぁぁぁ!」
夜の闇、叫び声が聞こえる。
どうしたんだ――アルスが駆け寄る。
「むっむむむ虫!」
ああ、リュウトの虫嫌いとは一生付き合わないといけないのか…アルスがため息をつく。
2人は昨日から洞窟を探して歩いているが、全くそれらしきものすらない。
バザザザザッ!
上の方で翼を羽ばたかせる様な音がした。目をこらしても、暗くて見えない。
「よう、家出か?」
後ろから声がした。
「誰だ!」
慎重にアルスが聞く。
「俺?――俺はあの時施設にお邪魔した者だよ」
笑うような男の声。
まさか、あのときの鳥のルーンに乗った男?2人に緊張がはしる。
「そこの威勢の良い坊ちゃん、その剣をお兄さんにくれないかな?」
アルスの剣?なぜそんなものを……まさか。アルスは男をにらみつけた。
男が続ける。
「その顔は駄目ってことだね、なら力ずくでも奪ってやるよ」
男が何かつぶやいた。すると、空の割れるような音がして何かが現れた。
「俺のルーン、スウィング・ライズだ、よろしく頼むよ」
いきなりライズがアルスの方に向かって突進してきた。
危ない――ギリギリのところでかわすことが出来た。
後ろの木はえぐれて穴が開いている。油断してはいけない。向きを変えると再び突進してきた。
戦うしかない。リュウトは叫んだ。
「ルーフ!」
リュウトの前に彼のルーン――エンフット・ウルフが現れた。
「リュウト!」
ルーフはリュウトのルーンであり、大事な友達でもある。
見た目は黄色い犬のような、ドラゴンのような感じで、おでこには、エンペラーみたいな飾りが付いている。骨のような細い翼が印象的だ。
「待て!」
アルスがリュウトを制する。
「今は俺がやる、リュウトはそこに隠れていて」
アルスの声は夜の寒さより冷えていた。
男が馬鹿にしたように笑う――こんな子どもが俺に勝てるとでも思っているのか。
しかし、男の考えは少し甘かった。男が攻撃するまもなく、気づいたときには背後にアルスが迫っていた。
「!」
男がとっさにかわす。だがアルスの疾風のような攻撃が完全にかわせるわけ無い。
そのとき男は見た、すべての光を吸い込んで二度と逃がさないような、赤黒いアルスの目を……
アルスの剣から黒い雷がまるで、獲物を捕らえる大蛇の舌のような動きで男に襲い掛かる。
普通の人間なら、もう二度と戦えなくなるだろう。
「っつ!」
男の肩から血が出てくる。急所は避けたものの、少しかすったようだ。
涼しい風が音を立ててうなっている。男はあいまいな笑顔でいった。
「俺の考えが少し甘かったようだ。出直してくるよ」
ふっと風が強く吹く、リュウトが目をつぶった一瞬、その間に男は消えた。
リュウトがアルスに聞く。
「びっくりしたね……」
「ああ」
アルスが笑って答えた。けがはしていない。
だがリュウトは見ていない。あのアルスの目を、そしてアルスが前に振り向いて、歩きながら、言った。
「ほら、村が見えてきた。もうすぐ森を抜けるぞ――」
アルスの後姿からはリュウトにはわからなかった。
アルスがつぶやく。
「……リュウトには、指一本触れさせない」
2人は村の方へ歩いていった。

そのころ、村とは反対側のほうへ鳥に乗った人間が動いていくのを、施設の院長は見た。
「あの目……まさかそんなこと無いだろうな。あいつは普通の人間だ。そうじゃないとあんな澄んだ目をした子どもと居るわけが無い……」
男はさらに森の奥に入っていった。やがて姿も見えなくなり、静かな夜の森がまたやってきた。
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