B-BLUE

BACK | NEXT | TOP

  1-3 洞窟の魔物  

「もう少しかな……?」
2人は暗く湿った洞窟を進む。
時折、大きな鍾乳石から白く濁った水が、少しずつ、岩を削りながら、滴っている。
それは、数時間前のこと――。

やっと町に付いた2人は、町の様子を怪しく思った。
町の人々が、2人を見るなりガラガラと窓や戸を閉めていく。
あっという間に町は、暗く静まり返った。
不思議に思いながらも2人は奥の方へと足を進める。
奥には、1軒の大きな家があった、
外装も他の家とは違い、少し派手で豪華な石造りだ。
この家なら、話を聞いてくれるかと直感で思ったアルスは家の戸に続く階段を上がろうとした。
リュウトもそれについていく。
すると、後ろから、
「おい!町長様に何のようだ!」
アルスが振り向くと同時に、町の人間に飛びかかった。銃を構えた者の腕だけ蹴った。
そして、宙に浮いた銃を手で取り、1番大きな人間に突きつけた。
冷たい声で、
「銃を人に向けるなら、それだけの覚悟があるんだな?」
1番大きな人間は、そのまま、へたんと地面に崩れた。額には冷や汗。
「うあ、ああ、うあああ、ああう」
気が動転していて言葉になってない。銃を突きつけられたのは初めてなのだから。
かわりに、後ろにいた若い男が話し出した。さっきのような威勢が全く感じられない。
「私たちは町のものです。あの、町長様に何の御用でしょうか?」
リュウトが答える。
「あの、この町に入ってはいけなかったのでしょうか?町の人々の様子が変だったもので。この町の人は旅人が嫌いなのでしょうか?」
「いえ、そんな事はけっしてありません。ただ……」
男はここでいったん言葉を切った。深呼吸をしてから、
「最近ここに魔物が出るのです」
「魔物?」
リュウトが聞く。男が答える。
「ここで話すのもなんです。町長様の家でお話します」
アルスが銃を横に投げ捨てる。
それを見た大男は安心したのか、気を失った。
「この町にあの魔物が出るようになったのは今から1ヶ月前の事です」
もう恐怖で倒れそうな青い顔の町長が話す。
「最初は、夜に物音がしているだけでした。ですが幾日もしない内に、町の武器庫が荒らされました。町の宝だった神剣を盗まれました、町の人間を当初は疑っていましたが、武器庫におかしな所がありました」
アルスが、聞く
「それは?何なのでしょうか?」
町長の顔がさらに青ざめる。
「武器庫の壁や戸に猫の引っ掻いたような傷があったのです。それに猫の毛!他の獣とは違う感じ、わかります?この町に猫なんていません。私が猫嫌いだったもので、すべて隣町に渡したはずなのです。ああ、気持ち悪い!」
町長は急いで階段を上がっていってしまった。
他の町の人が、少し笑いながら。
「すいません。町長は大の猫嫌いなんです。何でも子どものとき顔をすごく引っ掻かれてしまったそうで」
アルスが聞く。
「どうして魔物だってわかるんですか?」
「ああ、それでしたら大きさです。あの傷は普通の猫の3倍位大きかったので、それに足跡が人間なんです」
「人間?」
「ええ、なんて言うんでしょう、靴、ですかね。ちょうど旅人さんが履いているもののような感じです。この町では履物は、履きませんから」
アルスが納得したように、言う。
「それで俺達を襲おうとしたんですね」
「そうです。すみません。靴を履いた人間は魔物だってわかりますしね。それに夜だったものですから。あ、なぜ夜だとそうなるのかはあの魔物は夜にしか出ませんから」
「昼は何処にいるんですか?」
「何故そんな事を?もしかして退治にいって下さるのですか!?」
男や周りの町の人の顔が輝く。アルスが、言う。
「1つ条件があります。その盗まれた神剣を取り返すことが出来た場合、それを俺達にくれませんか?」
そのとき、階段から町長が降りてきた。石鹸の香りがして服が違う事から、綺麗に体を洗ったのだろう。石鹸と喜びで輝いた顔で言う。
「それは構わん!あの恐怖に比べたら神剣なんてどうでも良い!!」
アルスがまじめな顔で。
「良いんですか?もし俺たちが魔物で、洞窟から剣を見つけましたと嘘ついて、剣だけもってさよならかもしれませんよ?」
「それは無い、君たち2人から猫の感じが全く無い」
「わかりました。ではその魔物のいる場所に案内して下さい」

「ねえ、魔物ってどんなのかな、『長靴を履いた猫』みたいな感じかな?」
絶対違う事を言うリュウト。アルスがため息を吐きながら言う。
「いや、それは無いだろう。武器庫見ただろ?足跡の歩幅が俺達と同じ位だった。猫にあんな芸当は無理だろう。それに、猫は二本足で走れやしない。たぶんトラかライオンみたいなものだろ」
アルスが足を止める、そこには扉があった。大きな鉄の扉。
2人はお互いに目で合図を送った。小声で掛け声をかけながら一気に扉を押す。
ガタンッ!!大きな音がして扉が開――かなかった。
不思議に思いながらも2人は扉を押す力を強める。開く気配が全く無い。
「どうしよう……開かないよ?鍵、でもかかっているのかな」
リュウトがアルスに聞く。アルスが鍵穴を探そうとした時。
バーン!扉が勢い良くあいた。押すのでは無く、引くタイプの扉だった。
「押して駄目なら引いて見ろってか、覚えとかないとな」
扉が開いた時、思いっきり尻餅をついた2人は、心にこのことをしっかりと留めた。
扉から何かが出てくる。
「どなたですかぁ〜?」
緊張感の無い声。寝ていたようだ。彼の容姿は人間のようで、そうでなかった。
まず、耳が猫。頭の横ではなく上にちょこんと付いている。そして長い尻尾が生えている。動いている様子から、本物のようだ。
「えっと……」
リュウトは言葉が出ない。おそらくこの猫みたいな人が魔物の正体なのだろうが考えていたのと全く違う。
「靴を履いていますね。そしたらあの町の人では無いのですね。どうぞ、入って下さい」
2人は警戒しながら中に入る。アルスがリュウトに耳打ちする。
「あいつ……扉に近づいたとき気配が全く無かった。気をつけろよ」
リュウトは頷き扉の中に入っていった。
2人が入ると魔物は素早く2人の後ろに回り、扉を閉めた。内鍵もかけた。南京錠、鍵は魔物の手の中。
魔物が口を開く。
「誰にも邪魔されないようにですよ」
笑った。
BACK | NEXT | TOP
Copyright (c) 2011 emiki All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-

inserted by FC2 system